寒天について
寒天の特徴
寒天は、テングサ(天草)やオゴノリなどの紅藻類の粘液質を固めた「ところてん」を凍結・乾燥させた食品です。約360年の歴史を持ち、江戸時代に京都伏見の旅館「美濃屋」の主人・美濃屋太郎左衛門が、余ったところてんを外に捨てたところ、冬の寒さで凍結・脱水して白い乾物になったことから偶然発見されたとされています。
原料による違い
寒天の原料には主に2種類の海藻が使用されます:
- テングサ(天草):マクサ、オバクサ、ヒラクサなどテングサ科海藻の総称。一年草で養殖不可。高品質で弾力性と保水性に優れるが高価。主に糸寒天や伝統的な角寒天の原料
- オゴノリ:オゴノリやオオオゴノリなど。養殖可能で安定供給でき、工業生産に適する。アルカリ処理により凝固力を強化。主に粉寒天の原料
製造方法による種類
天然寒天(伝統製法)
- 角寒天(棒寒天):テングサとオゴノリのブレンドが多い。トコロテンを枠に流し込み、厳冬期(12月〜2月)に屋外で自然凍結・自然乾燥。2晩かけての凍結が最上。棒状で使用前に水で戻す必要あり
- 糸寒天(細寒天):テングサを主原料。自然凍結・自然乾燥で作られた糸状の寒天。滑らかな口当たりで透明度が高く、主に和菓子用。使用前に水で戻す必要あり
工業寒天(近代製法)
- 粉寒天:オゴノリを主原料。アルカリ処理(水酸化ナトリウム)後、漂白して煮沸抽出。工場内で圧搾脱水・熱風乾燥し粉末化。使用が簡単で凝固力が強い。現在市場の約90%を占める
- フレーク寒天:粉寒天の粒度を調整したもの。水洗いや裏ごし不要
産地
- 国産:かつては長野県(伊那地方)、岐阜県が主産地
- 輸入:チリ、インドネシア、韓国、モロッコ、スペイン、ブラジルなど世界各地から。2000年以降、輸入品が国産品を上回る
ゼラチンやアガーとの違い
寒天
植物性(海藻由来)。凝固力が最も強く、少量でしっかり固まる。融点約90℃、凝固点約40℃。常温で固まり、口の中で溶けない。歯切れの良いほろっとした食感
ゼラチン
動物性(牛・豚由来のコラーゲン)。融点25〜30℃で口の中で溶ける。弾力のあるプルプル食感
アガー
スギノリやツノマタなどの海藻由来カラギーナンが原料。透明度が最も高く、寒天とゼラチンの中間の柔らかさ
寒天の栄養成分
粉寒天 100gあたりの栄養成分値
✨ 寒天の特筆すべき特徴:
・食物繊維含有量 約80%:全食品中トップクラス(100g中79.0g)
・ほぼノンカロリー:ゼリー状態で3kcal/100gと極めて低カロリー
・100倍以上の保水力:胃の中で膨張し、満腹感を得やすい
・「第6の栄養素」:食物繊維の重要な生理機能が認められている
補足情報:
・寒天の約80%が食物繊維で、残りは水分と微量のミネラルです。
・人の消化酵素では分解されず、ほとんどがそのまま大腸に到達します。
・水溶性と不溶性の両方の食物繊維の特徴を併せ持ちます。
・1日の推奨摂取量は約6g(粉寒天の場合)です。
・特定保健用食品(トクホ)の関与成分として認められています。
寒天の健康効果
便秘解消・腸内環境改善
寒天に含まれる食物繊維は、水溶性と不溶性の両方の働きをします。
- 水溶性食物繊維:腸内で水分を吸収してゲル化し、便を柔らかくして排便をスムーズに
- 不溶性食物繊維:大腸で水分を吸収して膨張し、便のかさを増やして腸壁を刺激。腸の蠕動運動を活発化
研究データ:高齢者80名に寒天とオリゴ糖を3ヶ月間摂取させた研究で、排便回数の増加、下剤服用回数の減少、腸内細菌叢の改善が確認された。ビフィズス菌などの善玉菌が増加し、腸内環境が改善(日本栄養・食糧学会誌)。
腸内環境の改善は、大腸がんの予防、美肌効果(便秘が原因のニキビ・肌荒れ対策)にもつながります。
ダイエット・肥満予防効果
- ほぼノンカロリー:ゼリー状態で3kcal/100gと極めて低カロリー
- 満腹感の持続:胃の中で水分を吸収して膨張(100倍以上)し、少量でも満腹感が得られる。糖質の吸収に時間がかかるため、満腹感が長持ち
- 食べ過ぎ防止:食事の30分前に摂取すると、食事量を自然に減らせる
- 脂肪蓄積の抑制:糖の吸収を遅らせることで血糖値の急上昇を防ぎ、脂肪が付きにくい
研究データ:寒天を2.5%添加して炊いたご飯は、寒天なしのご飯と比べて食後血糖値の上昇が緩やかになることが確認された(日本調理科学会誌 2012)。
糖尿病予防・血糖値コントロール
食物繊維は腸壁からの糖の吸収を遅らせ、血糖値の急上昇を抑制します。これにより、インスリンの過剰分泌を防ぎ、糖尿病の予防に効果的です。
- 食前または食事と同時に摂取することで、血糖値上昇抑制効果が最大化
- 糖質を包み込んで吸収を遅延させる水溶性食物繊維の働き
動脈硬化・高血圧予防
食物繊維がコレステロールの吸収を防ぎ、体外への排出を促進:
- 悪玉(LDL)コレステロールの低減
- 血中脂質の改善
- 肥満改善による血圧低下
特定保健用食品(トクホ)としての認定
寒天由来の食物繊維は、「お腹の調子を整える」と表示されている特定保健用食品(トクホ)の関与成分として認められています。
寒天の使われ方
寒天は和菓子の定番材料ですが、料理からデザート、ダイエット食品まで幅広く活用できる万能食材です。
伝統的な和菓子
- 水羊羹:夏の定番。寒天で固めたあんこの和菓子
- 錦玉羹(きんぎょくかん):透明感のある上生菓子
- みつ豆・あんみつ:角切り寒天に果物やあんこ、白玉、黒蜜をトッピング
- 琥珀糖:宝石のような見た目の和菓子
デザート
- 寒天ゼリー:フルーツジュース、牛乳、コーヒーなどで。ゼラチンより硬めでプルプリとした食感
- 杏仁豆腐:中華デザートも寒天で作れる
- フルーツ寒天:キウイ、オレンジ、パイナップルなど。パイナップルやキウイはゼラチンでは固まらないが、寒天なら可能
- 牛乳寒天:ミルクプリンのような味わい
- コーヒーゼリー:カフェ風デザート
料理への応用
- ところてん:寒天を型に流して固め、心太突きで細く突き出す。酢醤油(関東)、黒蜜(関西)、ポン酢など。夏の清涼食品として人気
- 寒天サラダ:角切りまたは糸寒天を水で戻してサラダに加える。食感のアクセントに
- 味噌汁・スープのトッピング:糸寒天を直接入れて食物繊維を手軽に摂取
- 寒天入りご飯:米1合あたり粉寒天1gを加えて炊くと、ツヤが出てもっちり。冷めても美味しく、食物繊維も摂取可能
- あんかけ料理:寒天でとろみをつける
効果的な使い方のコツ
- しっかり煮溶かす:粉寒天の場合でも、沸騰させて1〜2分煮る。完全に溶かさないと舌触りが悪く、凝固力も弱まる
- 砂糖は寒天が溶けてから:寒天が溶ける前に砂糖を加えると溶けにくくなる
- 酸性の果汁は火を止めてから:レモン、オレンジなど酸味の強い果汁を一緒に煮ると固まりにくい
- 後から加える液体は常温〜人肌に:冷たい液体を加えると温度差で固まりにムラができる
- パイナップル・キウイも使える:これらの果物に含まれるプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)は、ゼラチンの凝固を阻害するが、寒天には影響しない
注意点・適量
1日の推奨摂取量:約6g(粉寒天の場合)
日本人の食物繊維摂取目標量は、18〜64歳で男性21g以上、女性18g以上です。しかし実際には全年代で不足しており、特に20〜40代で顕著です。
理想の摂取量(米国・カナダ基準):24g/日 現状の平均摂取量(日本人女性20歳以上):18.0g/日
不足分を寒天で補う場合、粉寒天で7.6g以上が目安ですが、通常は1日6g程度が適量とされています。
出典
- 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年版
- 日本調理科学会誌 2012 寒天2.5%添加ご飯の血糖値研究
- 日本栄養・食糧学会誌 高齢者80名の研究